小暑の季節、暑さを和らげる食文化を振り返る
七夕の短冊に込めた願いを夜空に託した後、いよいよ夏の暑さが本格的になる「小暑」の季節がやってきました。
暦便覧には「大暑来れる前なればなり」と記されているように、これから迎える真夏への序章ともいえる時期です。
街を歩けば、店先にはためく氷旗が目に飛び込んできます。
その涼しげな文字を見ただけで、思わず足を向けたくなってしまいますよね。
そう、夏の暑さをしのぐ代表的な食べ物といえば「かき氷」。
実は、このかき氷には千年以上の歴史があることをご存知でしょうか。
平安貴族が愛した究極の贅沢品

かき氷の起源は、なんと日本にあるとされています。
清少納言の『枕草子』には、「あてなるもの」(上品なもの)の一つとして、「削り氷に甘葛(あまずら)入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる」という記述があります。
これは削った氷に甘味料をかけたもので、平安時代の貴族たちは「削り氷(けずりひ)」と呼んでこの涼味を楽しんでいたのです。
また、『源氏物語』の常夏の巻には、「いと暑き日、東の釣殿に出でたまひて涼みたまふ(中略)大御酒参り、氷水召して、水飯など、とりどりにさうどきつつ食ふ」という一節があり、貴族たちが氷水や水飯で夏の暑さを凌いでいた様子が描かれています。
当時は「氷室」という天然の冷蔵庫で冬の氷を保存し、夏まで貯蔵するという大変な労力を要する作業でした。
そのため、氷は一般庶民にはとても手の届かない貴重で贅沢な食べ物だったのです。
現代では冷蔵庫や製氷機のおかげで、誰でも当たり前のように氷を楽しむことができる—なんとありがたいことでしょう。
庶民の知恵が生んだ夏の味「水飯」

一方、庶民でも手軽に楽しめる涼感料理として「水飯(すいはん・みずめし)」がありました。
この料理は広く親しまれていたため、俳句の夏の季語にもなっています。
水飯にかはかぬ瓜のしづくかな 其角
水飯に味噌を落して曇りけり 高浜虚子
水飯のごろごろあたる箸の先 星野立子
水飯は、ご飯を流水で洗って粘りを落とし、冷たい水やお茶をかけて食べるシンプルな料理です。
漬物、佃煮、塩鮭、梅干し、味噌などの箸休めと一緒にいただきます。
興味深いのは、『今昔物語集』に記された逸話です。
三条中納言藤原朝成が肥満に悩んで医者に相談したところ、「冬は湯漬、夏は水飯を食べるように」と助言されたという記述があります。
なんと、平安時代からダイエット食として認識されていたようです。
現代に受け継がれる夏の知恵
現在でも、美味しい水と米に恵まれ、夏場の気温が高い山形の内陸部では、水飯が郷土食として受け継がれています。
特におすすめは、山形名物の「だし」と組み合わせた現代版水飯です。
キュウリ、茄子、山芋、オクラを細かくざく切りにして混ぜ合わせ、白出しで味付けした「だし」に、ミョウガや大葉も加えれば、涼感もアップ間違いなし!
簡単で早くて美味しく、食欲のないときでもサラッと食べられる—まさに夏バテ知らずの一品です。
時代を超えて愛される涼の心
平安時代の貴族から現代の私たちまで、夏の暑さを和らげる食の知恵は脈々と受け継がれています。
かき氷の氷旗を見かけたら、千年の歴史に思いを馳せながら、ひとときの涼を楽しんでみてはいかがでしょうか。
横浜市在住 弦巻達也


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