6月5日頃から始まる芒種は、二十四節気の中でも特に「食」の豊かさを感じさせる季節です。
「芒(のぎ)」とは、稲や麦の穂先に見える細い毛のような部分のこと。
この時期は芒のある穀物の種を蒔く時期であり、同時に初夏の豊かな食材が一斉に旬を迎える季節でもあります。
麦秋の味覚〜新麦の香ばしさ
芒種の時期は「麦秋(ばくしゅう)」とも呼ばれ、麦の収穫期を迎えます。
新麦で打ったうどんは格別で、小麦本来の甘みと香りが口いっぱいに広がります。
この時期の麦は水分含有量が適度で、粉にした時の風味が一年で最も豊かになると言われています。
また、パン作りが趣味の方なら、この時期の国産小麦粉の違いを味わってみるのも良いかと思います。
新麦特有のもちもちとした食感と、ほのかな甘みは、輸入小麦とは明らかに異なる風味を持っています。
初夏の野菜たち〜走りの美味しさ
芒種の頃から「走り」の夏野菜が市場に出回り始めます。
この時期の野菜は、本格的な夏野菜ほど味が濃くなく、みずみずしさと爽やかさが特徴です。
新じゃがいもは皮が薄く、丸ごと茹でても皮ごと食べられる柔らかさです。
バターを添えてシンプルに味わうか、新玉ねぎと合わせてポテトサラダにすると、この時期ならではの優しい甘みを楽しめます。
そら豆は鮮度が命の野菜で、収穫から時間が経つほど糖分がデンプンに変わってしまいます。
「3日で味が変わる」と言われるほどデリケートな食材ですが、茹でたての甘みとホクホクした食感は格別ですね。
塩茹でのほか、素揚げにして塩を振るだけでも絶品の酒肴になります。
新玉ねぎは辛味が少なく、生で食べても甘みを感じられます。
スライスして水にさらし、鰹節と醤油をかけるだけのシンプルな料理で、玉ねぎ本来の味を堪能できます。
私は、鰹節とポン酢が好みです。
芒種の時期の食養生
食文化の観点から見ると、芒種の時期の食べ方には古くからの知恵が込められています。
消化を助ける食材選び
湿度が高くなり始めるこの時期は、東洋医学でいう「脾胃」の働きが弱りがちです。
消化を助ける食材として、山芋、はと麦、小豆などが重宝されてきました。
山芋に含まれるジアスターゼという酵素は消化を助け、ネバネバ成分のムチンは胃の粘膜を保護します。
とろろご飯は理にかなった食べ方と言えるでしょう。
はと麦は利尿作用があり、体内の余分な水分を排出する働きがあります。
はと麦茶として飲むのが一般的ですが、ご飯に混ぜて炊いたり、スープに入れたりする食べ方もあるようです。
発酵食品で腸内環境を整える
この時期は発酵食品を積極的に取り入れることも大切です。
味噌、醤油、酢などの基本調味料はもちろん、ぬか漬けや塩麹なども活用しましょう。
特にぬか漬けは、この時期の野菜との相性が抜群です。
新きゅうりやナスのぬか漬けは、塩分補給にもなり、発酵による乳酸菌で腸内環境も整えてくれます。
現代の食卓で楽しむ芒種
現代の食生活でも、芒種の季節感を取り入れることができます。
スーパーマーケットでも、この時期は新じゃがいもやそら豆、新玉ねぎなどが手頃な価格で手に入ります。
週末には少し時間をかけて、季節の野菜を使った料理に挑戦してみてはいかがでしょうか。
そら豆のポタージュ、新じゃがいもの煮っころがし、新玉ねぎのマリネなど、素材の味を活かしたシンプルな料理で、芒種の恵みを味わうことができます。
また、この時期から始まる薬味野菜を使って、いつもの料理に香りのアクセントを加えることで、食卓に季節感を演出できます。
冷奴に大葉とみょうがを添えたり、そうめんの薬味を豊富に用意したりするだけでも、十分に季節を感じることができるでしょう。
食を通じて感じる季節のリズム
芒種の季節は、食を通じて自然のリズムを感じ取ることの大切さを教えてくれます。
旬の食材を選び、季節に合った調理法で味わうことは、体を季節に適応させるだけでなく、心にも豊かさをもたらしてくれます。
古来から続く食の知恵を現代の食卓に取り入れ、忙しい日常の中にも季節の移ろいを感じる喜びを見つけてみてはいかがでしょうか。


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