二十四節気の「霜降(そうこう)」は、晩秋から初冬へと移り変わるころ。
朝晩の冷え込みが増し、草木に霜が降りて白く輝きます。
自然界が冬支度を始めるように、私たちの暮らしも少しずつ整える時期を迎えます。
「霜」という字には、“静かに降り積もる”という意味があります。
慌ただしい日常の中でも、立ち止まって息を整え、心を鎮める時間を大切に――
そんな思いを、この季節の言葉が教えてくれるようです。
この時期に思い出したいのが、松尾芭蕉の一句。
秋深き 隣は何を する人ぞ
この句は、芭蕉が旅の途中、大津で詠んだと伝えられています。
秋が深まり、あたりが静まりかえった頃、
ふと「隣の人は何をしているのだろう」と思いを巡らせた――
その情景には、孤独ではなく、静寂の中にある“人へのまなざし”が感じられます。
この一句には、自然と人とが共に生きる日本人の感性、
そして季節のうつろいの中で他者を思う“間(ま)の文化”が息づいています。
それはまさに、和食の心や礼の所作にも通じるものです。
朝の食卓でお箸を揃え、器をそっと置く。
その小さな所作にも、相手や自然への感謝が宿ります。
忙しさの中にも、ひと呼吸の余白を持つこと。
それこそが、霜降の頃に見つめ直したい“暮らしの礼”なのかもしれません。
霜降の朝、霜の白さに静かな美を見出しながら、
今日の一膳に、心のぬくもりを添えてみませんか。


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