春の柔らかな日差しが注ぐ4月中旬。私の暮らす三重県松阪市では、田んぼに水が張られ始め、いよいよ田植えシーズンの到来です。市内を車で走れば、どこを見ても水鏡のような田んぼが広がり、5月下旬まで次々と田植えの風景が見られます。
この季節になると、地元民の私が特に心待ちにしているのが、和菓子屋さんの店頭に並び始める「いばらまんじゅう」。
小麦粉や米粉の優しい生地であんこを包み、ちょうど今の時期に大きく育つサルトリイバラの葉で挟んで蒸した、まさに「旬」を味わえる季節限定のお菓子なのです。
「いばらまんじゅうはまだかいな」
和菓子屋さんに足を運ぶたび、地元のお年寄りからよく聞こえてくるこの言葉。それほどに愛され、待ち望まれている松阪の風物詩です。
実はこのいばらまんじゅう、単なる季節のお菓子ではなく、地域の農耕文化と深く結びついています。
かつては田植えなどの農作業の終わりを祝い、労をねぎらう「野上り(のあがり)」という行事があり、その際に振る舞われていたのだそうです。
汗を流して働いた後に味わう、香り高いいばらの葉に包まれた甘いまんじゅうは、きっと格別だったことでしょう。
時代の流れとともに「野上り」の行事自体はほとんど見られなくなりましたが、いばらまんじゅうの人気は衰えることなく、今もなお多くの人に愛され続けています。
私自身は農業を営んでいるわけではありませんが、このお菓子を口にするたびに、先人たちの労働を偲び、自然の恵みと季節の移ろいを感じずにはいられません。
今年も田植えの季節を迎え、大地の営みとともに、この伝統の味をありがたくいただきたいと思います。
松阪の小さな季節の贈り物。あなたも機会があれば、ぜひ味わってみてください。
松阪支部 順子


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